dreams become things

Wechsel Garland dreams become things (MARE-009 ¥1,800 ex.tax)

1998年にリリースされた名作『Wunder』以来、Wechsel Garland、17 pictures名義の作品、World Standard(鈴木惣一朗)、Soraとの競演、レイ・ハラカミ、Child's View(竹村延和)などへのリミックス提供が日本でも高く評価されているJörg Follert。本作は、ドイツのアート・ブック・レーベルStrzelecki Booksからアナログ盤で限定発売された『dreams become things』のCD版。A/B面に分かれたアナログ盤とは異なるCDにあわせ、曲順などが再構成されている。

 

ドリーミィなストリングスに、ハープ、シンセサイザー、マレット楽器音色が絡む、Wechsel Garland作品らしい幕開けから、新境地を想わせるポップなボーカル・ソング、ピアノを中心とした美しい小品、織り込まれたアイデアの数々に驚かされる実験作へと続く本作品。DJとしても活躍するWechsel Garlandの選曲、曲つなぎを初めて体験した時の驚き、感動が蘇るアルバムとなっている。

 

ひとつのカテゴリーに収まらない楽曲群ながら、言葉になりにくい感情、記憶を喚起する特質は共通しており、繰り返し聴く事で、タイトル通り、深い「夢」につながる通路を感じ取ることができるだろう。

 

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track list

 

01. Vessels

02. Hearts

03. The waiting hall

04. Der Durchgang

05. The summer inside

06. Equus

07. Entity

08. When dreams become things

09. Got to go

10. Alternative Transitions

11. Essay no 1

12. Box of clouds



dreams become thingsに寄せて

 

Wechsel Garlandの音楽は、いつでも謎と驚きに満ちている。アルバム『dreams become things』にはとてつもない深みがあり、聴いた瞬間にいくつもの絵が浮かんできた。特にすごいと思うのは、サウンドトラック、ポップ・アルバム、詩的なアルバムとその顔を変えながら、根底にある共通した雰囲気を失わないことだ。彼の第1作『Wunder』から続く、いやそれ以上のクオリティを備え、まったく古くならない音楽。Jörgは、彼独自のスタイルを2012年ならではの作品として提示することに成功したようだね。これから数年、Wechsel Garlandの新作に驚かされ続けることになりそうで、楽しみだ。
Hauschka/Volker Bertelmann

 

Jörgとはウィーンの音楽祭で知り合ってもう十数年経つが、普通のようでどこか普通でない彼のポップミュージックは一環し、常に説得力をもって語りかけてくる。そのサウンドの技法を要素分解してみてもそこに理由など無く、ただ彼がいるだけだ。全てが意味を失うフラットな時代だからこそ、こんなロマンティックなアルバムが産まれてくる。

竹村 延和


ぼくが「三月のワルツ」を録音しにドイツに行った時にJörgに連絡したら「最近は演劇の音楽の仕事で忙しいんだ」って言って会えなかった。それから届いた新作はそういう経験が十分に積み重なった作品になっていた。古い映画のサンプリングから出発した彼だが、このアルバムにはもう既にサントラアルバムなみの音楽性の厚みを感じる。それでもあの眠たい午後の黄金のまどろみから聞こえてくるようなJörgの音世界はずっと変わらない。そこが何より嬉しい。

トウヤマタケオ


Jörg Follert。彼が10年以上前に発表した「Wunder」に衝撃を受けた人は多いと思う。僕もその一人だ。「こんな音楽があったらいいだろうに」と何となく想像していた風景が一枚のアルバムに見事に収められていた。収められていたのは音楽ではなく、においや湿気や幸福な感覚。音を流した瞬間に部屋の空気が変わった気がした。僕は、自分がそれまでこっそり作っていた(誰に聴かせる為でもない)音楽を誰かに聴いて欲しくなった。


「Wunder」のアルバムをリリースしていたドイツのKaraoke Kalkに送ったところ、レーベルのオーナーから「是非、うちから出そう!Jörgと一緒に聴いて曲順を決めたい」と返事が返ってきた。飛び上がる程、嬉しかった。


その後、当時ケルンにあった(現在はベルリン)Karaoke Kalkを尋ね、Jörgさんに会うことができた。子どものように眼をキラキラさせて、繊細でいて、自分の想いは頑にしっかり持っている。大人なのか子どもなのか、よく分からない人だと思った。すぐに打ち解け、彼の子どもたちとも楽しく遊んだ。彼の家にも数日宿泊させてもらった。壁一面にたくさん並ぶレコードやCD、段ボールなどを使って自作したドラムセットやおもちゃのグロッケン、ギターやエレピが並ぶ、天井が高い広々とした制作環境。当時の彼は、現在の名義Wechsel Garlandの2枚目のアルバム「LIBERATION VON HISTORY」を制作している最中だった。途中経過を聴かせてもらったが、ボサノヴァ、レゲエなどの要素を取り入れたその新しい世界は、「Wunder」ともまた違い、彼独自の世界に突き進もうとしているのだと感じた。今どのように彼が感じているかは分からないが、当時、大反響だった「Wunder」の話をすると顔を曇らせていた。「あのアルバムはたくさんのサンプリングから成り立っているし、とても短い期間であっという間に出来てしまったから」とまるで何かを後悔しているように話していた。

 

Wechsel Garlandという名義に変えてから、一つ一つの音をきちんと自分の音にすること、自分だけの物語を語ることにこだわり始めたように思う。それは、新しいアルバム「dreams become things」をはじめて聴いたときにも感じた。まるで、映画のサウンドトラックのように、音楽を聴いているだけで或る情景や物語が見え隠れする。その光景は、必ずしも彼の住むドイツのものではなく、遠く離れた南米や島々の、しかし、そこに住む人たちの見ている光景ではなく、遠く離れた土地に辿り着いた冒険者たちの感じる光景に近い気がする。だから彼の音楽を聴くと、一緒に旅をしているような、そんな感覚に襲われる。そして、何故か彼の音楽にはノスタルジックな香りがつきまとう。それはいつも甘美で、人生の特別な一瞬を写真の代わりに音楽で留めたかのよう。冒険とノスタルジック、不思議なバランス。


以前、彼が日本を訪れたとき、特別な場所に連れて行くことも出来ず、ただ京都の街中や自宅で時を過ごしてもらった。今度、こっちに来るようなことがあったら、日本の田舎に連れて行きたい。彼なら、きっと面白い光やにおいを拾って豊かな音楽にしてくれると思う。


ずっと彼の音楽を聴き続けてきたリスナーとして友人として、「dreams become things」にて、この10年間、彼が試み続けてきた冒険はここに大きく極まったという感触を(ほんとうに勝手ながら)受ける。まだ見ぬ土地へ帆を向かわせるのか、彼の住む土地を深く潜っていくのか。ここからの彼の冒険が、いったいどうなってしまうのか、今から楽しみだ。これは新しい船出のアルバム。
高木 正勝